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東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)5号 判決 1981年4月27日

原告 石田善次郎

被告 北沢税務署長 東京国税局長 国税不服審判所長 国

訴訟代理人 石井宏治 佐々木正男 外六名

主文

一  原告の被告北沢税務署長に対する本件訴えのうち、原告が同被告に対し昭和五〇年八月七日付けでした原告の昭和四七年分所得税の修正申告の無効確認を求める訴え、同被告が原告に対し昭和五〇年九月三〇日付けでした右所得税の過少申告加算税賦課決定のうち過少申告加算税四五万八五〇〇円を超える部分の無効確認を求める訴え、並びに同被告が原告に対し昭和五三年三月一五日付けでした右所得税の更正及び過少申告加算税変更決定の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

二  被告北沢税務署長が原告に対し昭和五〇年九月三〇日付けでした原告の昭和四七年分所得税の過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和五三年三月一五日付け変更決定により変更された後のもの)のうち、過少申告加算税二四万二七〇〇円を超える部分は、無効であることを確認する。

三  原告の被告北沢税務署長に対するその余の請求並びに被告東京国税局長及び被告国税不服審判所長に対する各請求をいずれも棄却する。

四  被告国は、原告に対し、金二七三万六二〇〇円及びこれに対する昭和五三年五月一七日からその還付のための支払決定の日まで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は、原告及び被告北沢税務署長にそれぞれ生じた費用の各二分の一並びに被告東京国税局長及び被告国税不服審判所長にそれぞれ生じた費用を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用を被告北沢税務署長及び被告国の負担とし、被告北沢税務署長に生じたその余の費用を同被告の負担とし、被告国に生じた費用を同被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告が被告北沢税務署長に対し昭和五〇年八月七日付けでした原告の昭和四七年分所得税の修正申告は無効であることを確認する。

2  被告北沢税務署長が原告に対し昭和五〇年九月三〇日付けでした原告の昭和四七年分所得税の過少申告加算税賦課決定は無効であることを確認する。

3  被告北沢税務署長が原告に対し昭和五三年三月一五日付けでした原告の昭和四七年分所得税の更正及び過少申告加算税変更決定を取り消す。

4  被告東京国税局長が原告に対し昭和五二年二月一四日付けでした別紙物件目録記載の建物の差押を取り消す。

5  被告国税不服審判所長が原告に対し昭和五三年一〇月二六日付けでした4項記載の差押に対する審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

6  被告国は、原告に対し、金二七三万六二〇〇円及びこれに対する昭和五三年五月一七日から支払ずみまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

8  6項につき仮執行の宣言

二  被告北沢税務署長

(本案前の申立て)

1 原告の1及び3の請求に係る訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する申立て)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告東京国税局長及び被告国税不服審判所長

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

四  被告国

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  原告の請求が認容された場合の担保提供を条件とする仮執行免脱宣言

第二原告の請求原因

一  原告の昭和四七年分所得税について、原告が被告北沢税務署長に対して行つた確定申告及び修正申告(以下「本件修正申告」という。)、同被告が原告に対して行つた過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)、更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税変更決定(以下「本件変更決定」という。)は、次の表のとおりである。

区分

年月日(昭和)

課税標準(円)

申告納税額(円)

過少申告加算税(円)

確定申告

四八・三・一四

七三四、九〇〇

△一〇、三三八

修正申告

総所得

五〇・八・七

七三四、九〇〇

一五、四六二、二〇〇

分離長期譲渡所得

一〇三、一五〇、七四五

賦課決定

五〇・九・三〇

七七三、六〇〇

更正及び変更決定

総所得

五三・三・一五

七三四、九〇〇

九、一六一、二〇〇

四五八、五〇〇

分離長期譲渡所得

六一、一二四、四一〇

(△は還付金を示す。)

被告東京国税局長は、本件修正申告による所得税本税一五四六万二一五〇円(右の申告納税額に還付金返還額を加え、昭和五〇年分源泉還付金を充当した後の金額)及び本件賦課決定による過少申告加算税七七万三六〇〇円を徴収するため、昭和五二年二月一四日、原告所有の別紙物件目録記載の建物に対し差押(以下「本件差押」という。)を行つた。原告は、同年四月一四日被告国税不服審判所長に対し、本件差押につき審査請求を行つたが、同被告は、昭和五三年一〇月二六日これを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を行つた。

原告は、昭和五三年五月一六日被告東京国税局長に対し、本件更正後の所得税本税九一六万一〇〇〇円を納付した。

しかしながら、以下に述べるとおり、本件修正申告及び本件賦課決定は無効であり、本件更正、本件変更決定、本件差押及び本件裁決は取り消されるべきである。

二  原告は、昭和二三年ころより東京都世田谷区宮坂三丁目二二〇五番三所在の宅地四五五・二二平方メートル(以下「本件土地」という。)を所有者の宗教法人豪徳寺(以下「豪徳寺」という。)から賃借し、同地上に木造瓦葺二階建居宅兼道場(以下「本件旧建物」という。)を所有してこれに居住していたが、昭和四七年一一月二日豪徳寺との間で原告が本件土地の底地を三〇二九万四〇〇〇円で買い取る旨の契約を締結し、同日内金二〇〇万円を支払い、同年一二月一五日残金二八二九万四〇〇〇円を支払つて本件土地の所有者となつた。

原告は、老後の生活の安定を図るため、本件土地に建築業者のため地上権を設定して分譲用高層マンシヨンを建築させたうえ、右地上権設定の対価として右分譲用高層マンシヨンの一定部分の所有権を原告に提供させることを計画し、右分譲用高層マンシヨンが完成して分譲された後にその管理をさせる目的をもつて、同年一〇月一八日株式会社オリオン(以下「オリオン」という。)を設立し、その代表取締役に就任した。

そして、原告は、同月二一日建築業者である株式会社明生(以下「明生」という。)との間において、次のような内容の仮契約を締結した。

1  明生は、本件土地上に自己の資金で鉄筋コンクリート造陸屋根八階建床面積合計二三九九・二三平方メートルのマンシヨン(以下「本件新建物」という。)を建築し、原告に対し、後記地上権設定の対価として、同マンシヨンの一階及び二階の全部並びに三階の一部の合計六九四・二一平方メートル(二一〇坪)の所有権を移転するとともに、交換差金五〇〇〇万円を支払う。

2  原告は、本件土地上に所在する本件旧建物を取り壊したうえ、本件土地につき、明生のため、原告の取得する右建物部分六九四・二一平方メートルに相応する分を除いた持分四五五二二分の三二三五一の地上権を設定し、明生は、右地上権を本件新建物とともに第三者に分割譲渡できる。ただし、原告が自己分として保留する地上権持分と、明生の取得する地上権持分との数字が煩雑であるため、本件土地全部について明生のため地上権設定登記を行う。

3  この契約は、原告において、本件土地の北側に居住し本件新建物の建築により最大の日照被害を受ける中村克郎及び前田正信から日照承諾書を取り、右計画どおりの建築確認を得ることを停止条件とするものであり、日照紛争により右建築計画が変更を余儀なくされた場合には、計画変更に伴う損害の分担につき、原告と明生との間で協議が成立することを停止条件とする。

三  原告は、昭和四七年一一月一五日本件新建物建築の確認申請をしたが、中村克郎及び前田正信の承諾を得ることができず、同人らの反対陳情により容易に確認を得ることができず、本件新建物の八階の大部分及び七階の一部の合計四六七・七七平方メートルを削除することによつて昭和四八年四月七日ようやく確認を得ることができた。そして、原告は本件旧建物を取り壊し、昭和四九年に入り本件新建物が完成したが、右建築計画の変更に伴い前記仮契約も変更を余儀なくされ、原告と明生との間において、明生から原告に引き渡すべき建物部分及び交換差金をめぐり紛争が生じて訴訟にまで発展し、明生が本件新建物の一階及び二階の全部につき昭和五一年六月三日自己名義の保存登記をなすなどの対立が続き、昭和五二年四月二五日ようやく両者の間で裁判上の和解が成立するに至つた。その内容は次のとおりである。

1  明生は、本件新建物の一階二〇九・八〇平方メートル、附属建物二六・一九平方メートル、二階二三二・七三平方メートル、七階一一四・三四平方メートル及び八階八・一七平方メートル合計五九一・二三平方メートルが昭和四九年一月一七日の同建物完成の時点において原告の所有に帰したことを認める。

2  明生が原告に対し支払う交換差金は、一六五〇万円に減額する。

3  本件新建物の建築費用は、一平方メートル当たり九万円とする。

4  原告が本件土地につき明生のため設定する地上権の持分は、四五五二二分の二八五九三とする。

四  以上のとおり、原告が明生のため本件土地に地上権を設定したことにより、原告には分離長期譲渡所得が発生しているが、右所得が発生したのは昭和五二年四月二五日であり、また、右所得は三二一二万四四一〇円である。すなわち、

1  原告は、昭和四七年一〇月二一日明生との間で地上権設定の仮契約を締結しているが、同契約は、仮契約であるうえ、当初の建築計画どおりの確認が得られることを停止条件とし、日照紛争により右建築計画が変更を余儀なくされた場合には、計画変更に伴う損害の分担につき原告と明生との間で協議が成立することを停止条件とするものである。そして、日照紛争により当初計画どおりの建築確認は得られず、計画変更に伴う損害の分担につき原告と明生との間で協議が成立し、停止条件が成就したのは昭和五二年四月二五日の和解成立によつてである。したがつて、右地上権設定の仮契約が本契約として効力を発生し、原告に右地上権設定に伴う所得が発生したのは、右和解成立の日である。

また、右地上権設定の対価として原告に移転されるべき建物部分の範囲及び交換差金の額が確定し、右建物部分の引渡し及び所有権移転登記がなされることになつたのは、右和解成立の日であるから、その日に右所得が発生したものというべきである。

2  そして、原告は、本件旧建物を居住の用に供し、本件土地をその敷地の用に供していたところ、本件土地に地上権を設定するため本件旧建物を取り壊したのであるから、右地上権の設定は、昭和五二年分所得税に適用される租税特別措置法(昭和五〇年法律第一六号による改正後のもの)三五条一項にいう、個人がその居住の用に供している家屋とともにその敷地の用に供されている土地の上に存する権利の譲渡をした場合に該当し、右地上権設定に伴う長期譲渡所得の特別控除額は、三〇〇〇万円であり、同法三一条二項の一〇〇万円ではない。

3  したがつて、右地上権設定に伴う分離長期譲渡所得は、後記第六の五で被告が本件土地の借地権の分離長期譲渡所得として主張する六一一二万四四一〇円に、被告が特別控除した一〇〇万円を加え、新たに三〇〇〇万円を特別控除した三二一二万四四一〇円である。この金額から一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたうえ、分離長期譲渡所得の税率二〇パーセントを乗ずると六四二万四八〇〇円となるところ、原告は、この金額を昭和五二年分所得税として昭和五三年三月一五日までに確定申告し、納付すれば足るのである。

五  ところが、被告北沢税務署長の所部係官は、昭和五〇年六月ころ、本件新建物建築に関する税務調査を実施し、原告が昭和四七年中に本件土地の借地権をオリオンに譲渡したものであり、その分離長期譲渡所得が一億〇三一五万〇七四五円、申告納税額が一五四六万二二〇〇円であるとして、その旨の修正申告書の下書きを作成したうえ、原告に対し、「昭和四七年分所得税の修正申告をしておかないと脱税の意図があるものと判断される。」等と詐言及び強迫的言辞を用いて右下書きどおりの修正申告を行うよう執拗に迫つた。原告は、前記のとおり、本件土地につき明生のため地上権を設定したもので、原告が本件土地の借地権をオリオンに譲渡したという事実はないにもかかわらず、右係官から右のように欺罔、強迫され、錯誤に陥つて、昭和五〇年八月七日指図されるままに本件修正申告を行つた。しかし、本件修正申告は、右係官の欺罔及び強迫並びに原告の錯誤に基づくものであるから無効というべきであり、これを前提とする本件賦課決定も無効というべきであるから、これらの無効確認を求める。

六  本件修正申告及び本件賦課決定が無効である以上、これを前提とする本件差押は違法であり、したがつてこれに対する審査請求を棄却した本件裁決も違法というべきであるから、これらの取消しを求める。

七  また、本件更正は、原告が本件土地の借地権をオリオンに譲渡したとして、租税特別措置法三五条一項の三〇〇〇万円の特別控除を適用していない点において違法であり、本件変更決定も、原告には過少申告の事実がないから違法である。したがつて、これらの取消しを求める。

八  更に、原告は、前記地上権設定に伴う分離長期譲渡所得につき六四二万四八〇〇円を納付すれば足るところ、昭和五三年五月一六日本件更正後の所得税本税九一六万一〇〇〇円を納付したから、被告国に対し、誤納金として右差額二七三万六二〇〇円の返還と、これに対する誤納の日の翌日である同月一七日から支払ずみまで国税通則法五八条所定年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払を求める。

第三被告北沢税務署長の本案前の主張

一  原告は、本件修正申告の無効確認を求めているが、本件修正申告は、公法関係の行為ではあるが私人の行為であり、行政事件訴訟法三条四項にいう処分には該当しないから、右訴えは、不適法として却下されるべきである。

二  原告は、本件更正及び本件変更決定の取消しを求めているが、本件更正は、本件修正申告による所得税額を減少させる処分であり、本件変更決定も、本件賦課決定による過少申告加算税額を減少させる処分であつて、本件修正申告及び本件賦課決定の一部を取り消すという効力のみを有する原告に利益な処分であるから、原告には右各処分の取消しを求めるべき利益がなく、右訴えは、不適法として却下されるべきである。

また、原告は、右訴えを提起するに当たり、被告北沢税務署長に対する異議申立て及び被告国税不服審判所長に対する審査請求を経由していないから、右訴えは、この点においても不適法であり(国税通則法一一五条一項)、却下を免れない。

第四本案前の主張に対する原告の反論

被告北沢税務署長は、本件修正申告は行政事件訴訟法三条四項の処分に該当しないと主張するが、本件修正申告は、同被告所部係官の欺罔と強迫により、その作成した下書きどおり指図されるままに行つたもので、右係官に騙取又は強制されたものというべきから、右条項の処分というに十分である。

第五請求原因に対する被告らの認否

一  請求原因一の事実は認める。ただし、本件修正申告等が無効又は取り消されるべきであるとの主張は争う。

二  請求原因二のうち、原告が、昭和二三年ころより本件土地を豪徳寺から賃借し、同地上に本件旧建物を所有してこれに居住し、昭和四七年一一月二日豪徳寺との間で原告が本件土地の底地を三〇二九万四〇〇〇円で買い取る旨の契約を締結し、同日内金二〇〇万円を支払い、同年一二月一五日残金二八二九万四〇〇〇円を支払つて本件土地の所有者となり、同年一〇月一八日オリオンを設立してその代表取締役に就任した事実は認める。原告が同月二一日明生との間においてその主張のような仮契約を締結した事実は否認する。後記第六の一記載のとおり、右の日に明生と契約したのはオリオンであり、また、同契約は仮契約ではなく本契約であり、停止条件付きの契約ではない。

三  請求原因三のうち、本件新建物の建築につき昭和四七年一一月一五日確認申請がなされ、原告主張のような経緯で昭和四八年四月七日確認がなされ、原告が本件旧建物を取り壊し、昭和四九年に入り本件新建物が完成したが、原告主張のような紛争が生じ、昭和五二年四月二五日裁判上の和解が成立した事実は認める。しかし、右建築確認の申請は、明生が原告名義で行つたものであり、裁判上の和解も、原告、オリオン及び明生の三者間で成立したものであり、原告主張の和解条項のうち1及び3は認めるが、2の条項はなく、4の地上権設定者はオリオンである。

四  請求原因四の主張は争う。

五  請求原因五のうち、被告北沢税務署長所部係官が税務調査を行い、修正申告書の下書きを作成し、原告に修正申告を勧めた事実は認めるが、その余の事実は否認し、主張の趣旨は争う。右の下書きは、原告の求めにより、その説明する内容に従つて作成したものであつて、右係官が原告を欺罔ないし強迫した事実はない。

六  請求原因六の主張は争う。原告は、本件差押が違法であるから、これに対する審査請求を棄却した本件裁決も取り消されるべきであると主張しているが、行政事件訴訟法一〇条二項の規定により、原処分を正当として審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するのは格別、原処分の違法を理由として裁決の取消しを求めることはできないから、原告の右主張は失当である。

七  請求原因七及び八の主張は争う。

第六被告らの主張

一  被告北沢税務署長は、原告が本件土地に関する譲渡所得について申告しなかつたので、昭和五〇年六月ごろ係官をして調査させたところ、原告の説明により次の事実を把握することができた。

1  オリオンは、原告から本件土地の底地及び借地権を譲り受けることを前提に、昭和四七年一〇月二一日明生との間において次のような契約を締結した。

(一) オリオンは、本件土地につき、明生のため地上権を設定する。

(二) 明生は、本件土地上に自己の資金で鉄筋コンクリート造陸屋根八階建床面積合計二三九九・二三平方メートルのマンシヨン(本件新建物)を建築したうえ、オリオンに対し、右地上権設定の対価として、同マンシヨンの一階及び二階の全部並びに三階の一部合計六九四・二一平方メートル(二一〇坪)の所有権を移転するとともに、交換差金五〇〇〇万円を支払う。

2  原告は、昭和四七年一二月一五日オリオンに対し本件土地の底地を三〇二九万四〇〇〇円で譲渡するとともに、同月一六日オリオンとの間において次のような契約を締結した。

(一) 原告は、オリオンに対し、本件土地の借地権を譲渡する。

(二) オリオンは、原告に対し、右借地権の対価として、明生から取得する右建物部分六九四・二一平方メートル(二一〇坪)の所有権を移転するとともに、交換差金五〇〇〇万円を支払う。

二  したがつて、原告には、オリオンに対し昭和四七年一二月一五日に本件土地の底地を譲渡したことによる分離短期譲渡所得と同じく同月一六日に本件土地の借地権を譲渡したことによる分離長期譲渡所得が発生しており、被告北沢税務署長所部係官がその額について原告に説明を求めるなどして調査したところ、次のとおり、右分離短期譲渡所得は〇円、右分離長期譲渡所得は一億〇三一五万〇七四五円であることが判明した。

1  本件土地の底地の分離短期譲渡所得 〇円

原告が昭和四七年一二月一五日オリオンに対して本件土地の底地を譲渡した価額三〇二九万四〇〇〇円は、原告が豪徳寺から右底地を譲り受けた価額と同額である。したがつて、本件土地の底地の譲渡による分譲短期譲渡所得は、収入金額及び取得費が共に三〇二九万四〇〇〇円であるため、〇円となる。

2  本件土地の借地権の分離長期譲渡所得 一億〇三一五万〇七四五円

(一) 収入金額 一億一二三七万円

右借地権の対価は、明生が本件土地上に建築する本件新建物の一部二一〇坪と交換差金五〇〇〇万円との合計である。そして、右二一〇坪の評価額は、原告が一平方メートル当たり九万円と申し立てるので、二一〇坪に三・三平方メートルを乗じ、更に九万円を乗じて計算すると、六二三七万円となる。したがつて、右借地権の譲渡による収入金額は、六二三七万円と五〇〇〇万円との合計一億一二三七万円となる。

(二) 譲渡費用等 二六〇万〇七五五円

これは、本件旧建物の取壊時における未償却残高一五〇万〇七五五円及び取壊費用一一〇万円の合計である。

(三) 取得費 五六一万八五〇〇円

これは、租税特別措置法(昭和四八年法律第一六号による改正前のもの。以下「昭和四七年措置法」という。)三一条の二第一項本文の規定により、収入金額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額である。

(四) 特別控除 一〇〇万円

右借地権の譲渡所得は、昭和四七年措置法三一条の長期譲渡所得に該当するので、同条二項により、特別控除額は一〇〇万円である。

なお、昭和四七年措置法三五条一項は、<1>個人がその居住の用に供している家屋を譲渡した場合、<2>居住用家屋とともにその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利を譲渡した場合、<3>居住用家屋が災害により滅失した場合において、その家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存する権利をその災害のあつた日から一年以内に譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除額は一〇〇〇万円とする旨規定しているが、本件においては、借地権のみの譲渡であるから、右のいずれの場合にも該当しない。また、原告からオリオンに対する借地権の譲渡が、原告の居住用家屋を取り壊すことを前提とするものとして、右三五条一項の適用があるとしても、借地権の譲受人であるオリオンは、右三五条一項括弧書及び同法施行令二三条二項四号に規定する同族会社、すなわち原告と特別の関係がある者に当たるから、右三五条一項の適用が排除されるものである。更に、右三五条一項の適用を受けるためには、同条二項の規定により、資産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に、右三五条一項の規定の適用を受けようとする旨及び同項の規定に該当する事情を記載し、かつ、当該譲渡による譲渡所得の金額に関する明細書その他大蔵省令で定める書類を添付しなければならないところ、原告の昭和四七年分所得税の確定申告書には、右要件の記載及び書類の添付が何一つないのである。

(五) 分離長期譲渡所得 一億〇三一五万〇七四五円

(一)の金額から(二)ないし(四)の金額を控除すると、標記のとおりとなる。

三  そこで、被告北沢税務署長所部係官が原告に対し右の譲渡所得について修正申告を行うよう勧めたところ、原告は、昭和五〇年八月七日本件修正申告を行つたもので、本件修正申告には何らの無効事由も存しない。

四  そして、被告北沢税務署長は、昭和五〇年九月三〇日原告に対し本件賦課決定を行つたが、これは、原告が昭和四七年分所得税の確定申告において右の譲渡所得について申告せず、同被告所部係官の調査により更正のあるべきことを予知して同所得につき本件修正申告をしたためである。同被告は、国税通則法六五条一項の規定に基づき、本件修正申告に基づき納付すべき税額一五四七万二〇〇〇円(申告納税額一五四六万二二〇〇円に還付金返還額一万〇三三八円を加え、同法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した七七万三六〇〇円を過少申告加算税として賦課決定したもので、本件賦課決定には何らの違法事由も存しない。

五  被告北沢税務署長は、昭和五三年三月ころ、前記の借地権の譲渡後において、原告、オリオン及び明生の三者間で前記契約の変更をめぐり紛争が生じ、昭和五二年四月二五日裁判上の和解が成立するなどし、これに伴い右借地権の譲渡による収入金額に変動が生じたことを知つたので、再調査した結果、原告が本件土地の借地権をオリオンに譲渡したことによる分離長期譲渡所得は、次のとおり、六一一二万四四一〇円となつたことが判明した。

1  収入金額 六九七一万〇七〇〇円

右借地権の対価は、明生が本件土地上に建築した本件新建物のうち一階二〇九・八〇平方メートル、附属建物二六・一九平方メートル、二階二三二・七三平方メートル、七階一一四・三四平方メートル及び八階八・一七平方メートルの合計五九一・二三平方メートル(その価額は、一平方メートル当たりの単価九万円に五九一・二三平方メートルを乗じて計算した五三二一万〇七〇〇円)と交換差金一六五〇万円に変更されたので、右借地権の譲渡による収入金額は、五三二一万〇七〇〇円と一六五〇万円の合計六九七一万〇七〇〇円となつた。

2  譲渡費用等 四一〇万〇七五五円

前記二の2の(二)記載の二六〇万〇七五五円と弁護士報酬一五〇万円の合計四一〇万〇七五五円となつた。

3  取得費 三四八万五五三五円

これは、昭和四七年措置法三一条の二第一項本文の規定により、収入金額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額である。

4  特別控除 一〇〇万円

5  分離長期譲渡所得 六一一二万四四一〇円

1の金額から2ないし4の金額を控除すると、標記のとおりとなる。

六  被告北沢税務署長は、右のとおり分離長期譲渡取得に変動が生じ、また、これとは別に扶養控除額及び配当控除額についても訂正の必要を認めたため、昭和五三年三月一五日原告に対し、次の表のとおり本件更正を行つたもので、本件更正には何らの違法事由も存しない。

区分

修正申告額(円)

更正額(円)

長期譲渡所得

一〇三、一五〇、七四五

六一、一二四、四一〇

扶養控除

二九〇、〇〇〇

二八〇、〇〇〇

配当控除

四、〇六三

二、〇三二

申告納税額

一五、四六二、二〇〇

九、一六一、二〇〇

納付すべき税額

(加算税の基礎となる税額)

一五、四七二、五〇〇

九、一七一、五〇〇

七  被告北沢税務署長は、本件更正により、原告の本件修正申告による納付すべき税額を減額したことに伴い、国税通則法三二条二項の規定に基づき、本件賦課決定による過少申告加算税を、本件更正で減額された納付すべき税額九一七万一〇〇〇円(申告納税額九一六万一二〇〇円に還付金返還額一万〇三三八円を加え、同法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した四五万八五〇〇円(同法一一九条四項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に減額すべく、本件変更決定を行つたもので、これには何らの違法事由も存しない。

八  また、被告東京国税局長は、本件修正申告による所得税本税及び本件賦課決定による過少申告加算税を徴収するため本件差押を行つたものであつて、本件修正申告が有効であり、本件賦課決定が適法である以上、本件差押も適法である。そして、これを維持した被告国税不服審判所長の本件裁決も適法である。

第七被告らの主張に対する原告の認否

一  被告らの主張一のうち、昭和四七年一〇月二一日オリオンと明生との名義で、ほぼ被告ら主張の内容の契約が締結されたことは認める。しかし、オリオンは実体のない会社であつて、右契約は、原告が自己の化身としてオリオンの名義を使用し明生との間で締結したもので、第二の二記載のとおり、原告と明生との間の契約であり、しかもそれは仮の契約であり、かつ停止条件付きの契約である。そして、原告が同年一二月一五日本件土地の底地をオリオンに譲渡したという事実はない。原告は、オリオンとの間で右のような譲渡契約を締結したことはなく、また、三〇二九万四〇〇〇円という譲渡代金をオリオンから一円たりとも受け取つていないのである。更に、原告が同月一六日本件土地の借地権を譲渡したという事実もない。原告とオリオンとの間において、右のような譲渡契約が締結されたこともなく、代金の授受もないのである。仮に、オリオンが原告とは独立の権利主体であり、明生との間で被告ら主張の契約を締結したとしても、原告とオリオンとの間においては何らの契約も締結されていないのであるから、オリオンが他人の土地について地上権設定の契約を締結したというにすぎないのである。

二  被告らの主張二は争う。ただし、本件旧建物の未償却残高が一五〇万〇七五五円であり、取壊費用が一一〇万円であることは認め、借地権の取得費の計算方法については争わない。

三  被告らの主張三ないし八は争う。ただし、六の扶養控除額が二八万円であり、配当控除額が二〇三二円であることは認める。

第八証拠<省略>

理由

第一本件修正申告の無効確認請求について

原告が昭和四七年分所得税について、昭和五〇年八月七日被告北沢税務署長に対し本件修正申告を行つたことについては、当事者間に争いがない。

原告は、本件修正申告の無効確認を求めるものであるが、所得税の修正申告は、公法関係における行為ではあるものの、一私人のものであるから、行政事件訴訟法三条にいう処分(行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為)には該当せず、その無効確認を求める訴えは不適法といわなければならない。したがつて本件修正申告の無効確認を求める原告の訴えを却下することとする。

第二本件更正及び本件変更決定の取消請求について

被告北沢税務署長が、本件修正申告に伴い、昭和五〇年九月三〇日原告に対し過少申告加算税七七万三六〇〇円を課す旨の本件賦課決定を行い、昭和五三年三月一五日、本件修正申告による分離長期譲渡所得一億〇三一五万〇七四五円を六一一二万四四一〇円に、同じく申告納税額一五四六万二二〇〇円を九一六万一二〇〇円にそれぞれ減額する旨の本件更正を行うとともに、本件賦課決定による右過少申告加算税を四五万八五〇〇円に減額する旨の本件変更決定を行つたことについては、当事者間に争いがない。

原告は、本件更正及び本件変更決定の取消しを請求するものであるが、右のとおり、本件更正は、本件修正申告による課税標準及び税額を減額し、本件変更決定は、本件賦課決定による過少申告加算税を減額したもので、共に、それ自体は原告に有利な処分であるから、原告にはその取消しを求むべき訴えの利益がない。また、原告が右訴えを提起するに当たつては、被告北沢税務署長に対する異議申立て及び被告国税不服審判所長に対する審査請求を経由すべきところ(国税通則法一一五条一項)、原告が右不服申立てを経由していないことについては、原告もこれを明らかに争つていない。したがつて、本件更正及び本件変更決定の取消しを求める原告の訴えは、いずれにしても不適法というべきであるから、これを却下することとする。

第三本件賦課決定の無効確認請求について

一  原告は、本件賦課決定の無効確認を求めるものであるが、本件賦課決定のうち過少申告加算税四五万八五〇〇円を超える場合は、本件変更決定により既に取り消されているから、原告には右部分の無効確認を求むべき訴えの利益がない。したがつて、本件賦課決定の無効確認を求める訴えのうち、過少申告加算税四五万八五〇〇円を超える部分の無効確認を求める訴えを却下することとする。

そこで、本件変更決定により変更された後の本件賦課決定について、その適否を判断するに、原告は本件修正申告が無効であるから、これを前提とする本件賦課決定も無効であると主張するので、本件修正申告が無効であるか否かについて検討を加えることとする。

二  まず、本件修正申告の対象となつた分離長期譲渡所得の実体について検討するに、成立に争いのない甲第六号証、甲第一八号証、甲第四二号証の一、甲第四三号証、乙第一号証の一及び三ないし六並びに乙第二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一六号証、乙第一号証の二、乙第三号証の一ないし三、乙第四号証の一及び二並びに乙第五号証ないし第七号証、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第一九号証、証人小柳友志郎の証言(一部)並びに原告本人尋問の結果(一部)から認定される事実と、当事者間に争いのない事実は、次のとおりである。

1  原告は、昭和二三年ころより本件土地を所有者の豪徳寺から賃借し、同地上に本件旧建物を所有してこれに居住していたが、昭和四七年一一月二日豪徳寺との間において、本件土地の底地を三〇二九万四〇〇〇円で買い取る旨の契約を締結し、同日手付金として二〇〇万円を支払い、同年一二月一五日残金二八二九万四〇〇〇円を支払つて本件土地の所有者になつた(この点については、当事者間に争いがない。)。

2  原告は、他の六名の発起人とともに、資本金二〇〇万円で不動産の管理運営等を目的とする株式会社オリオンの設立手続を行い、昭和四七年一〇月一八日その設立登記を経由し、原告がその代表取締役に就任したが、オリオンは、原告及びその親族を判定の基礎となる株主とした場合に法人税法二条一〇号に規定する同族会社であつて、実質的に原告のいわゆる個人会社であり、その実際上の目的は、分譲用高層マンシヨンである後述の本件新建物が完成し、分譲された後に、その管理を行うことにあつた(オリオンが右同日設立されたこと及び原告がその設立手続を行い代表取締役に就任したことについては、当事者間に争いがない。)。

3  オリオンは、昭和四七年一〇月二一日、明生との間において、次のような契約を締結した。

(一) オリオンは、本件土地につき、明生のため、地上権を設定する。

(二) 明生は、本件土地上に自己の資金で鉄筋コンクリート造陸屋根八階建床面積合計二三九九・二三平方メートルの分譲用高層マンシヨンである本件新建物を建築したうえ、オリオンに対し、右地上権設定の対価として、本件新建物の一階及び二階の全部並びに三階の一部の合計六九四・二一平方メートル(二一〇坪)の所有権を移転するとともに、交換差金五〇〇〇万円を支払う。

(三) 右交換差金の支払時期は、内金一五〇〇万円については契約締結時、内金一〇〇〇万円については本件新建物の一階基礎コンクリート打完了時、残金二五〇〇万円については本件新建物完成後二か月以内とする。

(四) 明生は、右地上権を本件新建物とともに第三者に分割譲渡できるものとし、また、右地上権は、地代支払義務を伴うものとする。

4  明生は、昭和四七年一一月一五日、原告名義で本件新建物の建築確認の申請を行つた(原告名義の右建築確認申請が右同日なされたことについては、当事者間に争いがない。)。また、明生は、オリオンに対し、右五〇〇〇万円の内金として、同年一〇月二一日三〇〇万円、同年一二月一五日一二〇〇万円、合計一五〇〇万円を支払うとともに、同日一八〇〇万円を貸し付けた。以上の三三〇〇万円の中から、原告が豪徳寺から買い取つた本件土地の代金三〇二九万四〇〇〇円の支払がなされ、本件土地については、同日、豪徳寺からオリオンへの同日付け売買を原因とする所有権移転登記が経由された。更に、明生は、同月二八日株式会社佐藤秀工務店との間において、同社に本件新建物の建築工事を請け負わせる旨の契約を締結し、手付金として一〇〇万円を支払つた。

5  昭和四八年三月八日、本件土地につき、明生のため、目的鉄筋コンクリート造建物所有、存続期間五〇年、地代一平方メートル当たり一年五二七円四〇銭の地上権設定登記が経由された。また、本件新建物の建築計画は、日照被害を受ける附近住民の反対陳情で容易に確認を受けることができなかつたが、八階の大部分及び七階の一部の合計四六七・七七平方メートルを削除する旨の変更を加えることにより、同年四月七日になつて確認がなされた(この点については、当事者間に争いがない。)。そして、同月、本件旧建物の取壊しが行われるとともに、本件新建物の建築工事が開始された。なお、本件旧建物の右取壊時における未償却残高は一五〇万〇七五五円であり、取壊費用は一一〇万円であつた(この点については、当事者間に争いがない。)。

6  右建築計画の変更に伴い、オリオンと明生は、昭和四八年七月一七日合意書を作成し、明生からオリオンに対し所有権移転すべき建物部分を一階及び二階の全部並びに七階及び塔屋一階の一部の合計六九四・二一五平方メートルに変更するとともに、交換差金を一六五〇万円に変更することを合意した。そして、本件新建物は昭和四九年二月一五日に竣工したが、右建物部分の引渡しをめぐり紛争が生じ、オリオンが明生を被告に東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第一〇八一一号建物所有権確認等請求事件を提起し、これに対し明生が同裁判所昭和五〇年(ワ)第一三五三号貸付金債権等反訴請求事件を提起し、また、原告が明生を被告に同裁判所昭和五一年(ワ)第五五九五号建物所有権保存登記抹消請求事件を提起した。これらの三事件につき、原告、オリオン及び明生の三者間において、昭和五二年四月二五日次のような条項を含む裁判上の和解が成立した。

(一) 明生と原告との間において、本件新建物のうち一階二〇九・八〇平方メートル、附属建物二六・一九平方メートル、二階二三二・七三平方メートル、七階一一四・三四平方メートル及び八階八・一七平方メートルの合計五九一・二三平方メートル(建築費用は一平方メートル当たり九万円である。)が、昭和四九年一月一七日、建物完成の時点において、原告の所有に帰したことを確認する。

(二) 明生と原告との間において、明生が、前同日、右建物部分を原告に引き渡したものであることを確認する。

(三) オリオンは、明生に対し、二三八〇万円の借受金返済義務のあることを認め、本日その支払をなし、明生は、これを受領した。

(四) 明生は、原告がオリオンに対して移転した本件土地に対する借地権持分、オリオンが明生に対して設定した本件土地に対する地上権持分がいずれも四五五二二分の二八五九三であること、明生のため本件土地全体につき地上権設定登記を経由したのは営業上の必要性及び便宜のためであつたことを確認し、本件土地に対する一番地上権持分四五五二二分の一六九二九につき、原告のため真正なる登記名義の回復を原因として、本日その移転登記手続をする。(和解調書に四五五五二とあるのは、四五五二二の誤記と解される。)

7  なお、オリオンは、前記東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第一〇八一一号事件の訴状及び準備書面において、「オリオンと明生とは、昭和四七年一〇月二一日、オリオンがその所有する本件土地に明生のため地上権を設定し、明生が本件土地上に本件新建物を建築したうえ、右地上権設定の対価として、オリオンに対し、本件新建物のうち一階及び二階の全部並びに三階の一部の合計二一〇坪の所有権を移転し、かつ五〇〇〇万円を支払うことを約した。」旨の主張を一貫して行つた。

三  二に掲げた事実を総合することにより、次の結論を導くことができる。

1  原告は、昭和四七年一二月一五日本件土地の底地を取得し、これに伴つて、原告の本件土地に対する借地権は、混同により消滅した。そして、原告は、同日本件土地の所有権(借地権の付着しない所有権)をオリオンに譲渡した。

2  原告からオリオンへ譲渡された本件土地の対価は、オリオンが明生から取得する本件新建物の一部及び交換差金とされた。そして、オリオンが明生から取得する右の建物部分及び交換差金については、オリオンと明生との間の昭和四七年一〇月二一日の契約において、建物部分二一〇坪、交換差金五〇〇〇万円と定められたが、昭和四八年七月一七日の合意書で建物部分六九四・二一五平方メートル、交換差金一六五〇万円と変更され、更に、昭和五二年四月二五日の裁判上の和解で建物部分五九一・二三平方メートル、交換差金一六五〇万円と確定された。

3  ところで、原告からオリオンに対する本件土地の譲渡は、従前の底地に相当する部分が短期保有資産(所得税法三三条三項一号に掲げる所得の基因となる資産)の譲渡に該当し、従前の借地権に相当する部分が長期保有資産(同項二号に掲げる所得の基因となる資産)の譲渡に該当する。したがつて、本件土地の譲渡による所得に対して課税するに当たつては、右譲渡による収入金額を、右短期保有資産の譲渡に係る分と、右長期保有資産の譲度に係る分とに区分する必要があるところ、原告が三〇二九万四〇〇〇円を現実に豪徳寺に支払つて右短期保有資産(従前の底地に相当する部分)を取得し、同日これを譲渡していることからすれば、本件土地全体の対価のうち三〇二九万四〇〇〇円は右短期保有資産の譲渡に係る収入金額であり、本件土地全体の対価から三〇二九万四〇〇〇円を控除した残りの額が右長期保有資産(従前の借地権に相当する部分)の譲渡に係る収入金額と認めるのが相当である。

4  本件土地のうち従前の借地権に相当する部分(長期保有資産)に関する長期譲渡所得の特別控除については、譲渡先のオリオンが原告及びその親族を判定の基礎となる株主とした場合の同族会社に該当するため、昭和四七年措置法三五条一項は適用されず、同法三一条二項が適用となり、その額は一〇〇万円である。

四  以上のように、原告は、昭和四七年一二月一五日本件土地をオリオンに譲渡したものと認むべきであるが、この点に関する原告の主張について、次に細論することとする。

1  まず、原告は、オリオンに対する本件土地の譲渡行為そのものを否定している。確かに、原告とオリオンとの間において、右譲渡に関し契約書等が作成された形跡はない。しかし、原告は、昭和四七年一二月一五日本件土地を豪徳寺から買い取り、その所有者となつているところ、本件土地については、同日付けで豪徳寺からオリオンへの所有権移転登記がなされているのであつて、このことからすれば、同日原告からオリオンへの本件土地の所有権移転があり、右登記は中間省略登記であると認めざるを得ないのである。そして、オリオンが同年一〇月二一日明生との間で前記のような契約を締結し、同年一二月一五日までに明生から交換差金一五〇〇万円の支払を受けるとともに一八〇〇万円の貸付を受けたのも、オリオンが原告から本件土地の譲渡を受けることを前提とした行為というべきであり、また、オリオンが昭和四八年三月八日本件土地につき明生のための地上権設定登記を行つていることも、オリオンが原告から本件土地を譲り受け所有者となつたことを裏付けるものというべきである。

2  次に、原告は、オリオンは実体のない会社で、オリオンと明生との契約は原告がオリオンの名義を使用し明生との間で締結したものであり、原告が直接明生のため地上権を設定したものであると主張する。しかし、オリオンは、現に設立登記を経由し、正規に成立した会社であり、本件土地につき所有権移転登記を受け、明生を被告に訴えの提起も行つており、分譲用高層マンシヨンである本件新建物が完成し、分譲された場合には、その管理を行つて収益をあげるほか、本件新建物の区分所有者からの地代収入もその収益とすることが予定されていたのであつて、原告の個人会社であるからといつて、実体のない会社ということはできず、法律上原告とは別個の権利義務の主体であることは明らかである。したがつて、原告の右主張は到底採用できない。

3  原告は、オリオンと明生との間の昭和四七年一〇月二一日の契約は、仮契約であり、また、当初の建築計画どおりの確認が得られること、右建築計画が変更を余儀なくされた場合には、計画変更に伴う損害の分担につき当事者間で協議が成立することを停止条件とする契約であり、同年中には未だ効力が発生していなかつたという趣旨の主張をしている。

原告の譲渡所得は、オリオンに対する本件土地の譲渡に係るもので、オリオンと明生との間の右契約の発効とは直接の関係を有するものではないが、本件土地の譲渡対価が右契約により定まる関係にあるので、右契約の発効について触れることとする。

まず、原告は、右契約が仮契約であると主張するが、オリオンと明生との間において右契約以外に本契約なるものが締結された事実はなく、右契約を基礎に、オリオンは地上権の設定を行い、明生は本件新建物の建築及びオリオンに対する交換差金の支払を行つているのである。すなわち、オリオンと明生とは、将来本契約を締結するために、昭和四七年一〇月二一日に準備の話合いを行い、あるいは予約を行つたものではなく、右の日に本契約を締結したものというべきである。このことは、両者間の昭和四八年七月一七日付けの合意書(甲第一九号証)において、「本合意は、旧契約(昭和四七年一〇月二一日の契約)と一体をなすものであつて、旧契約は依然として効力を有するものであることを甲乙(オリオンと明生)は確認する。」と明記されていることからも明らかである。もつとも、右両者間の昭和四七年一〇月二一日付けの契約書には、「(仮称)経堂オリオン建設契約及び地上権譲渡仮契約書」との標題が付され、明生からオリオンに引き渡すべき建物部分につき「二一〇坪(案)」と記載されている。しかし、右契約書を通読すれば、建築計画の変更等、将来の事情変更に応じ、右両者の協議により契約内容を変更することがあり得ることを予想して、「仮契約書」、「二一〇坪(案)」なる表示がなされたものと認められ、前記認定の妨げとなるものではない。

次に、原告は、右契約は停止条件付きの契約であると主張する。確かに、右契約書には、「但し、第七条、第八条の停止条件付とする。」、「第七条 甲(オリオン)は、乙が建築確認申請書を提出する迄に、北側二軒の日照承諾書を得る事を認めた。」及び「第八条 甲は建築期間中の日照問題に依る建設中止等に於ける乙の損害に付いては、甲の負担とし、周辺住民の建設反対等万一事故が発生した場合には、乙がこうむる損害は甲、乙均等の負担となる事を認めた。」との記載がある。しかし、明生は、交換差金の内金としてオリオンに対し昭和四七年一〇月二一日三〇〇万円、同年一二月一五日一二〇〇万円を支払い、同年一一月一五日原告名義の建築確認申請を行うとともに、同年一二月二八日には株式会社佐藤秀工務店と本件新建物の建築請負契約を締結しており、オリオンも、昭和四八年三月八日には明生のため地上権設定登記を経由しているのであつて、右契約が停止条件付きの契約であつたとは認められない。右契約書の第七条は、単にオリオンの義務を定めたものであり、第八条は、その内容からして停止条件となるものではなく、右両者間の損害分担を定めたにすぎないものというべきである。

したがつて、オリオンが本件土地につき明生のため地上権を設定することに対する対価は、将来における変更がある程度予想されたとしても、昭和四七年一〇月二一日の右契約で本件新建物の一部二一〇坪及び交換差金五〇〇〇万円と正式に定められたのであり、右対価が、そのまま、原告からオリオンに譲渡された本件土地の対価とされたものと認められるのである。それゆえ、右対価は昭和四七年における原告の譲渡収入として課税の対象となるものである。

4  なお、原告の本人尋問における供述には、以上の原告の主張に沿う部分があるが採用できない。

五  次に、前記三の認定に関し、被告らは、原告はオリオンに対し、昭和四七年一二月一五日に本件土地の底地を譲渡し、同月一六日に本件土地の借地権を譲渡したものであり、右底地の対価は三〇二九万四〇〇〇円であり、右借地権の対価はオリオンが明生から取得する本件新建物の一部二一〇坪と交換差金五〇〇〇万円の合計であると主張するので、この点について細論する。

確かに、原告は、本件の昭和五四年(行ウ)第五号事件の訴状において、被告らの右主張と同様の主張をし、後にこれを撤回している。しかしながら、本件土地の借地権者であつた原告が昭和四七年一二月一五日本件土地の底地を取得することにより、原告の借地権は混同により消滅しており、原告がオリオンに対し、同日本件土地の底地のみを譲渡し、翌日本件土地の借地権を譲渡するというようなことは、通常考えられないことである。また、前述のとおり、原告とオリオンとの間において、本件土地の譲渡に関し契約書等が作成された形跡はないのであり、まして、底地と借地権とを分離し、二つの譲渡契約が締結されたことをうかがわせる証拠は何ら存しない。原告からオリオンに対しては本件土地の所有権そのものが譲渡されたと認めるほかないのである。

そして、右所有権譲渡につき、原告がオリオンから受け取るものとしては、本件新建物の一部と交換差金しかなく、それが本件土地全体の対価をなすものと認めざるを得ないのである。

被告らは、右のほかに三〇二九万四〇〇〇円の対価があり、それは底地の対価をなすものであると主張するが、原告とオリオンとの間において、右建物部分及び交換差金のほかに三〇二九万四〇〇〇円を本件土地の対価とする旨の契約がなされたことをうかがわせる証拠は全くない。本件土地の譲渡がなされた昭和四七年一二月一五日当時、オリオンは、資本金二〇〇万円で設立されたばかりの会社であり、明生から右建物部分と交換差金を取得する予定はあつたものの、これとは別個に三〇二九万四〇〇〇円の支払をなす能力はなかつたのであり、原告とその個人会社であるオリオンとが右のような契約を締結するとは考え難いところである。原告とオリオンとの間においては、原告が本件土地をオリオンに譲渡して明生のために地上権を設定させ、その代わりにオリオンが明生から受け取る建物部分及び交換差金を原告が取得するということに尽きるのであつて、本件土地を底地に相当する部分と借地権に相当する部分とに特に区分して譲渡しているわけではないのであり、それぞれの対価を定める必要性というものも認め難いのである。被告らの主張する三〇二九万四〇〇〇円は、原告が豪徳寺に支払つた本件土地の底地の代金と同額であるが、右代金の支払にも、明生からオリオンに対し右交換差金の一部として支払われた現金と、右交換差金の残金との相殺を予定して貸し付けられたと認められる現金とが充てられており、右交換差金とは別個に三〇二九万四〇〇〇円がオリオンから原告に支払われたものではない。換言すれば、原告もオリオンも、豪徳寺に支払うべき三〇二九万四〇〇〇円は、右交換差金から捻出することを当初から予定していたものと認むべく、右三〇二九万四〇〇〇円を右交換差金とは別個のものと考えることはできないのである。もつとも、本件新建物の一部及び交換差金はオリオンの明生に対する地上権設定の対価として取り決められたものであることを考えると、原告からオリオンに対する所有権譲渡の対価が右地上権設定の対価と同額であるというのは一見奇異にみえないではなく、オリオンが本件土地の地上権の対価として明生から取得する右建物部分及び交換差金をそのまま本件土地の所有権の対価として原告に引き渡すことになれば、オリオンには本件土地の底地に相当する利益が残るかのごとくである(ただし、この底地は、鉄筋コンクリート造建物所有を目的とし、かつ、第三者に譲渡可能な地上権に対応するものであるから、従前の木造建物所有のための借地権に対応する底地と同じものとはいえないのであり、右底地に相当する利益を、従前の底地の価額である三〇二九万四〇〇〇円で評価することはできないであろう。)。しかし、オリオンは、原告とは別個の権利主体であるとはいえ、原告の個人会社であるから、その間における本件土地の譲渡については、オリオンが明生から現実に取得できる限度のものをもつてその譲渡対価とするということもあながち不自然なことではない。かえつて、前記の実態に照らせば、右建物部分及び交換差金が借地権のみの対価であつて底地の対価を含んでいないとみることの方が不自然というべきである。

したがつて、原告が昭和五四年(行ウ)第五号事件の訴状でした前記主張は、後記のような経過でなされた本件修正申告の内容に引きずられ、錯誤に陥つた結果によるものであり、事実に反するものと認められる。また、被告北沢税務署長所部係官であつた証人小柳友志郎は、原告が本件修正申告の際同証人に対し、本件土地の譲渡価額は、底地部分については豪徳寺からの譲受金額と同額であり、借地権部分についてはオリオンが明生から取得する右建物部分の評価額と交換差金の合計額である旨説明したと証言するが、後にも触れるとおりたやすく措信できない。

そして、他には、三の認定に反する証拠はない。

六  そこで、本件修正申告の経緯について検討するに、原本の存在及び成立に争いのない甲第八号証及び甲第三五号証、前掲甲第四二号証の一、甲第四三号証、乙第五号証及び乙第六号証、証人小柳友志郎の証言(一部)並びに原告本人尋問の結果(一部)を総合すれば次の事実が認められ、証人小林友志郎の証言及び原告本人尋問の結果のうちこの認定に反する部分は措信できず、他にこの認定に反する証拠はない。

1  被告北沢税務署長所部係官は、昭和五〇年六月から同年八月にかけ、原告からオリオンへの本件土地の譲渡に関する税務調査を実施した。

2  原告は、右係官に対し、次のような説明を行つた。すなわち、原告は、豪徳寺から賃借していた本件土地を買い取り、これに明生のため地上権を設定したこと、明生は右地上権設定の対価として、その資金で本件土地上に分譲用高層マンシヨンである本件新建物を建築したうえ、その一部二一〇坪を原告に譲渡するほか、原告が本件土地を購入する資金等を必要とするため、右建物部分とは別に五〇〇〇万円を原告に支払うことを約束したこと、また、明生は、本件新建物の残りの部分を他に分譲し、その管理から身を引く予定であるため、後の管理は原告において行うよう依頼したこと、そこで、原告は、本件新建物の管理を行う会社としてオリオンを設立したこと、本件新建物は昭和四九年三月に完成したが、原告と明生との間において紛争が生じて訴訟に発展し、明生の右約束が未だ完全には履行されていないこと、本件土地について、豪徳寺からオリオンへの所有権移転登記が経由されたが、この登記は誤りであるから、原告名義に登記を改める予定であること、右地上権設定に伴う所得の申告は、右訴訟の判決が言い渡された後に行う予定であること等の説明を行つた。右係官は、原告の右説明を聴くほか、原告の提出した書類の調査や反面調査を実施したうえ、次のような認定を行つた。

(一) 原告は、本件土地を豪徳寺から賃借していたところ、昭和四七年にこれを豪徳寺から買い取つた。

(二) 原告は、昭和四七年に本件土地をオリオンに対し譲渡した。

(三) オリオンは、本件土地につき、明生のため地上権を設定した。右地上権設定の対価は、本件新建物の一部二一〇坪と交換差金五〇〇〇万円であり、オリオンは、これをそのまま原告に引き渡すことになつていた。

(四) 原告からオリオンへ譲渡された本件土地は、従前の底地に相当する部分が短期保有資産に、従前の借地権に相当する部分が長期保有資産に該当するところ、右底地に相当する部分の譲渡による収入金額は、豪徳寺からの取得価額と同額であり、右借地権に相当する部分の譲渡による収入金額は、右建物部分二一〇坪の評価額と交換差金五〇〇〇万円との合計額である。

そして、右係官は、原告には本件土地の譲渡により所得が発生しているところ、原告はその申告を怠つているとして、原告に対し修正申告を行うよう指導した。原告は、明生との間で訴訟が係属しており、右建物部分の引渡し及び交換差金の支払が未だ完全には履行されていないとして、修正申告をしぶつたが、右係官が、訴訟の結果により契約内容に変更が生ずれば更正の請求をすればよく、とりあえず修正申告をすべきであると強く説得した結果、原告も、修正申告をすること自体については納得した。しかし、原告は、右譲渡所得につき租税特別措置法三五号一項の特別控除を認めてほしいと申し立てた。これに対し、右係官は、本件土地の譲渡先であるオリオンは同族会社であるから右の特別控除は認められないことを説明した。原告は、豪徳寺からオリオンに対する本件土地の所有権移転登記を原告に対するものに改め、原告が直接明生に地上権を設定した形にするから、右特別控除を認めてほしいとなおも申し立てたが、右係官から、そのようなことをすれば重加算税の対象となり得ると説明され、右特別控除の適用も断念することに至つた。

3  そして、原告は、本件新建物の評価額が一平方メートル当たり九万円であると申し立て、本件土地の譲渡による所得を昭和四八年分の所得として修正申告するから、その下書きを作成してくれるよう右係官に依頼した。右係官は、いつたんはこれを承諾したが、調査の結果、原告から昭和四七年分所得税の確定申告はなされているものの、昭和四八年分所得税の確定申告はなされておらず、右譲渡所得を昭和四八年分の所得として申告するよりも昭和四七年分の所得として申告する方が原告に有利であることが判明し、そのことを原告に連絡したところ、原告も、昭和四七年分の所得として申告することを納得した。

4  右係官は、本件土地の譲渡による所得について、従前の底地に相当する部分の譲渡による分離短期譲渡所得は、収入金額と取得価額が同額の三三〇〇万円であるため〇円であり、また、従前の借地権に相当する部分の譲渡による分離長期譲渡所得は、本件新建物の評価額につき原告申立ての一平方メートル当たり九万円を採用すれば、次のとおり一億〇三一五万〇七四五円になると算出した。

(一) 収入金額 一億一二三七万円

本件新建物の一部二一〇坪の評価額六二三七万円(二一〇坪に三・三平方メートルを乗じ、更に九万円を乗じて計算した額)と交換差金五〇〇〇万円との合計額

(二) 譲渡費用等 二六〇万〇七五五円

本件旧建物の未償却残高一五〇万〇七五五円と取壊費用一一〇万円との合計額

(三) 取得費 五六一万八五〇〇円

昭和四七年措置法三一条の二第一項本文の規定により、右収入金額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した額

(四) 特別控除 一〇〇万円

昭和四七年措置法三一条二項の規定による額

(五) 分離長期譲渡所得 一億〇三一五万〇七四五円

(一)の金額から(二)ないし(四)の金額を控除した額

そして、右係官は、原告から依頼された下書き作成のため、修正申告書用紙に所要の数字等を記入する際、分離課税の短期譲渡の欄に「種目底地、収入金額三三〇〇万円、必要経費三三〇〇万円、所得金額〇円」と記入し、また、分離課税の長期譲渡の欄に「種目借地権、収入金額一億一二三七万円、必要経費八二一万九二五五円、特別控除額一〇〇万円、所得金額一億〇三一五万〇七四五円」と記入した。原告は、右下書きを基に、修正申告書を作成し、本件修正申告を行つた。

七  原告は、本件修正申告は被告北沢税務署長所部係官の欺罔及び強迫行為によつてなされたものであり、かつ、原告の錯誤に基づくものであるから、無効であると主張する。

本件修正申告は、六で述べたとおり、被告北沢税務署長所部係官の強い指導によつてなされたものであるが、本件全証拠をもつてしても、右係官に原告主張のような欺罔及び強迫行為があつたものとは認められない。

ところで、六で述べたとおり、原告は、本件土地のうち従前の借地権に相当する部分の譲渡による長期譲渡所得の収入金額を一億一二三七円として、本件修正申告を行つている。この金額は、本件新建物の一部二一〇坪の評価額六二三七万円(二一〇坪に三・三平方メートルを乗じ、これに原告申立ての評価額一平方メートル当たり九万円を乗じて得た額)と交換差金五〇〇〇万円との合計額である。しかしながら、三で述べたとおり、この金額は、本件土地全体の譲渡による収入金額として申告すべきもので、従前の借地権に相当する部分の譲渡による長期譲渡所得の収入金額としては、右金額から従前の底地に相当する部分の価額三〇二九万四〇〇〇円を控除した額を申告すべきであつたものである。したがつて、原告は、本件修正申告において長期譲渡所得の収入金額を右三〇二九万四〇〇〇円だけ過大に申告したことになる(なお、底地に相当する部分の譲渡による短期譲渡所得の所得金額は、収入金額と必要経費が共に三〇二九万四〇〇〇円であるため、〇円となる。本件修正申告は、右収入金額と必要経費を共に三三〇〇万円としているが右所得金額を〇円としている点においては誤りはない。)。

そして、右過大申告は、被告北沢税務署長所部係官の誤つた指導により、原告が錯誤に陥つた結果によるものというべきである。この点につき、右係官であつた証人小柳友志郎は、原告自身が前記税務調査の際に右係官に対し、底地に相当する部分の対価は豪徳寺からの取得金額と同額であり、借地権に相当する部分の対価はオリオンが明生から取得する本件新建物の一部二一〇坪及び交換差金五〇〇〇万円である旨説明した、と証言している。しかしながら、五で述べたとおり、原告とオリオンとの間において右のような対価の取決めはなされておらず、原告が右のような説明をするとは考えられないのである。また、税法の知識を特に有しているとも思えない原告が、一個の土地の対価を、底地に相当する部分と借地権に相当する部分に区分して説明するということも、認め難いところである。原告本人尋問の結果及び証人小柳友志郎の証言によると、原告は右税務調査の過程において事情説明のため前掲甲第三五号証の書面を右係官に提出していることが認められるところ、右書面には、原告が右建物部分及び交換差金のほかに三〇二九万四〇〇〇円を受け取ることになつていたという趣旨の記載は一切ない。むしろ、右交換差金は、原告が豪徳寺から本件土地を購入するための資金等に充てるためのものであつたと記載されているのである。したがつて、右係官が、修正申告書の下書きを作成する際、分離課税の短期譲渡の欄に収入金額と必要経費とを同額に記入したうえ、分離課税の長期譲渡の欄に、収入金額として、右建物部分の評価額と交換差金との合計額の一億一二三七万円と記入したのは、原告の説明に起因するものではなく、右係官自身が関係資料等を分析し事実関係を税法的に組み立てる過程において、明生からオリオンに対して交付される地上権設定の対価がオリオンから原告に対して交付される借地権相当部分の対価と当然対応するはずのものであるとの前提をとつた結果、底地に相当する部分の対価としては豪徳寺からの取得価額と同額のものを別に立てる以外にはないという判断をしたことによるものと認めるのが相当である。そして、原告は、課税上問題とされているのが明生からオリオンを経て取得する本件新建物の一部と交換差金であるということに専ら気をとられ、原告とオリオンとの関係の法的構成いかんがいかなる意味をもつかについて十分な関心がなく、しかも、右係官の構成によつても底地に相当する部分の譲渡所得金額が〇円となつて課税されないということであつたため、右係官のいうところに引きずられ、その誤りに気付くことなく、右係官の下書きを信頼し、本件修正申告を行つたものと推認される。

我が国の所得税法は、申告納税制度を採用し、租税債務を可及的速やかに確定させるという国家財政上の要請から、申告の過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前をとつている。したがつて、申告そのものを法律の定める方法で是正することなく、申告の錯誤を理由に、当該申告を前提とした過少申告加算税賦課決定の適法性を争い、あるいは納付した税金の還付を求める場合には、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、法律の定める方法以外にその是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がなければならないが、本件では、右に認定したように、土地譲渡の対価として原告の取得するものが本件新建物の一部と交換差金だけであることが明らかであつたにもかかわらず、それが借地権に相当する部分のみの対価であつて底地に相当する部分の対価を含んでいないという誤つた判断をした税務係官が、右判断を前提とした構成による修正申告書の下書きを作成してそれによる申告を強く指導したため、原告がその誤りに気付くことなく、右下書きを信頼して錯誤に陥つたものであり、右錯誤については原告の立場として無理からぬものがあつたというべく、その結果、収入金額において三〇二九万四〇〇〇円の過大申告をしているのである。このような事情の下においては、右修正申告書の記載内容の錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、法定の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に該当すると解するのが相当であり、原告は、本訴において、本件修正申告のうち右過大申告部分について修正申告の無効を主張できるものというべきである。

八  本件修正申告書は、分離長期譲渡所得を一億〇三一五万〇七四五円、申告納税額を一五四六万二二〇〇円とするものであるが、本件更正により、右分離長期譲渡所得は六一一二万四四一〇円、申告納税額は九一六万一二〇〇円とそれぞれ変更されている。本件更正は、原告の取得する本件新建物の一部が五九一・二三平方メートルに縮少され、交換差金が一六五〇万円に減額されたとして、本件土地のうち借地権に相当する部分の譲渡による収入金額を六九七一万〇七〇〇円に減額したものであることが、被告らの主張から明らかである。しかし、右収入金額は、本件土地のうち底地に相当する部分の譲渡による収入金額とすべき三〇二九万四〇〇〇円を含んでいるのであつて、本件修正申告の前記過大申告部分は、本件更正によつても是正されないまま維持されているのである。そこで、右借地権に相当する部分の譲渡による収入金額を三九四一万六七〇〇円(六九七一万〇七〇〇円から三〇二九万四〇〇〇円を減じた額)とし、その一〇〇分の五に相当する一九七万〇八三五円を右部分の取得費とし、その他の項目については本件更正で用いられた金額を使用して計算すると、分離長期譲渡所得は三二三四万五一一〇円、申告納税額は四八四万四三〇〇円となる。したがつて、本件修正申告(本件更正により一部変更された後のもの)のうち、分離長期譲渡所得三二三四万五一一〇円及び申告納税額四八四万四三〇〇円を超える部分は無効であり、それ以外の部分においてのみ有効というべきである。

そして、本件修正申告は、前記のとおり、被告北沢税務署長所部係官の調査があつたことにより更正があるべきことを予知してされたものであることが明らかであるから、同被告が原告に対し過少申告加算税を課したこと自体は適法である。しかし、右過少申告加算税の額は、本件修正申告により納付すべき税額四八五万四〇〇〇円(右申告納税額四八四万四三〇〇円に還付金返還額一万〇三三八円を加え、国税通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した二四万二七〇〇円とすべきである。本件賦課決定は、過少申告加算税の額を七七万三六〇〇円とするものであり、本件変更決定によりその額を四五万八五〇〇円に減額されたが、右の二四万二七〇〇円をなお超える部分については、その基礎となるべき所得税本税を欠き無効というべきである。

したがつて、本件賦課決定(本件変更決定により変更された後のもの)の無効確認を求める原告の請求は、二四万二七〇〇円を超える部分については理由があるのでこれを認容し、その余の部分については理由がないのでこれを棄却することとする。

第四本件差押の取消請求について

被告東京国税局長が、本件修正申告による所得税本税一五四六万二一五〇円(申告納税額に還付金返還額を加え、昭和五〇年分源泉還付金を充当した後の金額)及び本件賦課決定による過少申告加算税七七万三六〇〇円を徴収するため、原告所有の別紙物件目録記載の建物に対し本件差押をなしたことは、当事者間に争いがないところ、原告は、本件修正申告及び本件賦課決定が全部無効であることを前提に、本件差押の取消しを求めるものであるが、前述のとおり、本件修正申告は、申告納税額を四八四万四三〇〇円とする限度において有効であり、また、本件賦課決定も過少申告加算税額を二四万二七〇〇円とする限度において有効である。本件差押は一個の処分であつて、差押処分に係る租税債権の一部に瑕疵があつても、右のようになお有効な租税債権が存続する以上、本件差押の効力には影響がないものというべきである。そして、原告が右所得税本税を納付したことについては当事者間に争いがないが、右過少申告加算税の納付については、原告の主張がなく、未納の状態にあるものと認めざるを得ない。したがつて、原告は、租税債権の消滅を理由に本件差押の取消しを求めることもできないのであつて、右取消しを求める原告の請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとする。

第五本件裁決の取消請求について

原告が本件差押を不服として被告国税不服審判所長に対し審査請求を行つたところ、同被告が昭和五三年一〇月二六日これを棄却する旨の本件裁決を行つたことについては、当事者間に争いがない。

原告は、本件差押が違法であることを理由に、本件裁決の取消しを求めるものであるが、裁決の取消しの訴えにおいては、原処分(この場合本件差押)の違法を理由として取消しを求めることができないから(行政事件訴訟法一〇条二項)、本件裁決の取消請求は主張自体失当である。したがつて、右請求を棄却することとする。

第六誤納金及び還付加算金の支払請求について

原告が、昭和五三年五月一六日被告東京国税局長に対し、昭和四七年分所得税の本税九一六万一〇〇〇円を納付したことについては、当事者間に争いがない。しかしながら、原告が本件修正申告により納付すべき所得税額は、前記のとおり四八四万四三〇〇円であるから、右納付額との差額四三一万六七〇〇円は、国税通則法五六条一項の誤納金というべきである。したがつて、右誤納金四三一万六七〇〇円と、この金額に右納付の日の翌日からその還付のための支払決定の日まで年七・三パーセントの割合を乗じて計算した同法五八条の還付加算金を原告に還付すべきである。原告は、本訴において、被告国に対し、誤納金二七三万六二〇〇円と、この金額に納付の日の翌日である昭和五三年五月一七日からその還付のための支払決定の日まで(原告の請求の趣旨に「支払ずみまで」とあるのは、国税通則法五八条所定の「還付のための支払決定の日まで」の趣旨と解される。)年七・三パーセントの割合を乗じて計算した還付加算金の支払を求めているところ、右支払を求める誤納金及び還付加算金の額は、原告において還付を求め得る額の範囲内であるから、原告の被告国に対する右支払請求を認容することとする。ただし、仮執行宣言の申立てについては、その必要がないものと認め、これを却下することとする。

第七結論

よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条並びに民事訴訟法八九条、九二条及び九三条一項本文の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 泉徳治 菅野博之)

物件目録<省略>

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